絵画とデッサンで描くタンゴの世界

パリ在住の日本人画家でタンゴ・ミロンゲロ(一般的に知られているショータンゴとは異なるブエノスアイレス生まれの伝統的な<タンゴ> tango milonguero)の普及に努める女性がいます。僕も大いに感化され<タンゴ>に魅せられた者の一人です。

<タンゴ>の何に魅了されたのでしょう。おそらく最大の理由は僕に<タンゴ>を教えてくれる人が<ダンサー>ではないことです。同世代ということもあるかもしれません。半世紀ほど異国で過ごし、画家を本業としながら、さまざまなダンスを習った末に<タンゴ>に出会って魅了された、そういう来歴らいれきに引かれたのです。

そんな彼女をとりこにした<タンゴ>に僕も魅了された。まだうまくリードできないのに不遜ふそんながら、そう考えています。彼女が絵画とデッサンで描く<タンゴ>の世界に引かれたということです。70歳にしてこういう世界を知った者は仕合しあわせというべきでしょう。

…日本人も勿論もちろんアジア系なのですが、中国人や韓国人と違って、独特の内向性ないしストイック(抑制的)な面を備えています。タンゴの持つ情熱的な要素とこの抑制的な要素がぶつかると、そこに葛藤かっとうを生じます。とくに、ミロンゲロではペア同士が体を接することもあり、異性をハグ(抱擁ほうよう)することにれていない多くの日本人はその違和感をだっしないまま、タンゴから遠ざかってしまうようです。
長年パリに住みながら、過去10年ほどのあいだ何度か日本に短期滞在し、タンゴに魅せられた人々を観察してきた私は、日本美の根底に抑制された美意識を見ます。情熱を抑制しながら表現できるようになると、単なる情熱の表出とは違う一種の気品や格調の高さが生まれます。それが日本的なタンゴだといえるかもしれません。
日本人はそういう抑制された感情表現が得意だと思うからです。ただ、その抑制力が否定的に作用すると内向きになり、単なる内気になってしまいます。それを克服こくふくして情熱を表現できたら本当にすばらしい。タンゴと日本的な美意識を融合する—そんなことをめざす人が増えたら、とひそかに期待しています…
パリから見た日本のタンゴ tango milonguero より
(c) wakakoyamamoto

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