国会オンライン化「常識」が壁、鈴木貴子氏
Asahi.com 2020/8/21 5:00
第五十六条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
Article 56. Business cannot be transacted in either House unless one-third or more of total membership is present.
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、民間では「リモートワーク」が進んだのに、どうして国会ではオンライン化が進まないのだろう。そんな疑問を抱いた。
自民党若手議員約30人が4月、感染がさらに拡大したり、議員に感染者が出たりする場合に備え、国会のインターネット中継を視聴すれば出席と認めたり、オンライン採決も可能としたりする改革案をまとめた。だが6月に閉会した通常国会で、本格的なオンライン化は実現しなかった。
なぜなのか。改革案づくりを担った一人、鈴木貴子衆院議員(34)に話を聞いた。私と同じ30代。立ちはだかった壁は「永田町の常識」だったという――。
鈴木さんは北海道選出の当選3回。地域政党・新党大地の代表で国政では日本維新の会に所属する鈴木宗男参院議員(元自民党総務局長)を父親に持つ。
鈴木さんらは3月、「コロナを機に社会改革PT(プロジェクトチーム)」を立ち上げ、緊急事態宣言が出されるさなかの4月、自民党幹部らに改革案を提出した。「いかに国会を止めないか、という問題意識だった。コロナによって不測の事態や考えられるリスクが見えているのに、アクションを起こさないのは無責任」。鈴木さんはこう語った。
だが、改革案を受け取った自民党重鎮は「憲法の問題から慎重な議論が必要だ」と難色を示した。憲法は56条で「両議院は総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」としており、オンライン化を認めない理由とされてきたからだ。
ただ、憲法が制定されたのはインターネットのない時代だ。鈴木さんは「伝統と歴史のなかで確固たるものとなった『永田町の常識』が最大の壁だった」と振り返り、こう続けた。「国会のオンライン化は、今の技術や環境でできないことではない。自らの意志でできるはずなのにできないということは、今いる私たち国会議員の意識の問題なのかなと思う」
実際、私が取材で感じていたのも、国会における「出席」の概念を変えることへの根強い抵抗感だった。議員が議場に集まって審議に参加することは、立法府である国会の重要な原則だろう。しかし、それではコロナの感染リスクはなかなか低下しない。
鈴木さんの危機感の背景には、実は個人的な経験も関係している。2017年と19年に女児を出産。第1子の妊娠時には「任期中の妊娠は職務放棄だ」との批判の声が寄せられたという。
「産みづらさ、生きづらさを感じた」。現在、衆院で女性議員の割合は1割。鈴木さんは、女性議員の妊娠・出産時に議場にいなくても採決に参加できるようにすることも求めている。
取材の終盤、鈴木さんは私にこう問いかけた。「(国会改革の)何が難しいの?って思いません?」。私の素直な感覚も同じだった。「令和の時代は新型コロナや既成概念といった見えざるものとの闘いの時代。30代を自ら責任世代だと位置づけて、議論を牽引(けんいん)したい」と話す鈴木さんの取り組みがどのような方向に進むのか。責任世代として実現できるのか。政治記者として見極めたいと思った。
すずき・たかこ 衆院議員(自民党)、当選3回(比例北海道)。地域政党・新党大地代表代理や防衛政務官などを歴任。34歳。
◇聞き手・清宮涼:2011年入社、広島総局や国際報道部などを経て17年から政治部。自民党や国会取材を担当している。