085j 新羅・高麗の宝物に日本という外国の地で接する

10月27日、奈良の東大寺境内にある正倉院の宝物を一部開示する正倉院展が奈良国立博物館で開幕しました。11月12日まで無休で開催されます。私は26日の開幕式とプレビューに招待され参加しました。

正倉院展は約9千点の宝物から毎年数十点を選び、短期間一般公開する行事です。一度出品された宝物は10年以上公開されないのが原則で、一生に一度しか見られないものも多いそうです。

今回初めて公開される10点の宝物を含め、56点が展示されています。出品物のなかには新羅の伽耶琴(カヤグム、新羅琴)や白銅製の剪子(せんし、灯明の芯切りばさみ )、真鍮製の器とそれを包んでいた紙などがあり、新羅時代(前57-935)の生活を垣間見たような気がしました。新羅時代の宝物に日本という外国の地で接したことが、私のなかに嬉しさと驚きとともに、切々とした感情を呼び起こしました。

聖武天皇(701-756)と光明皇后(701-760)がご愛用されたという玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくのはこ)、献上品を保管していた沈香木画箱(じんこうもくがのはこ)などの宝物が、今回の展示会の代表的な展示品として紹介されていました。

何よりも驚くのは建立から1300年近く経っている正倉院(741-750年建立と推定)という木造の倉庫に、数多くの貴重な宝物が完全な形で保管されてきたという事実です。単に戦争がなかったというだけでは説明できない、奇跡としか言いようのないことです。そのお蔭で多くの人が宝物を目にする贅沢を享受できるのです。

正倉院展は毎年秋に僅か17日だけ開かれるので、海外や日本の各地から集まってくる見物客で人だかりができるそうです。1946年から開かれ、東京で開かれた3回を除き、すべて奈良国立博物館で開かれてきました。ことしで70回を数えます。

この日せっかく奈良まで行ったので、同じ奈良で高麗建国1100年特別展を開催中の二つの美術館も訪問しました。1978年に大規模な高麗仏画展を開いて世界に衝撃を与えた大和文華館では「高麗 – 金属工芸の輝きと信仰」展を開催しています。10月6日に始まり、11月11日に終わります。高麗青磁だけでなく、高麗の金属工芸がかくもすばらしかったのか、と今さらながら実感しました。午前中早い時間に行ったにもかかわらず、見物客が多かったのも驚きでした。

東大寺の横にある小さな寧楽美術館でも10月1日から来年2月24日まで「翡色象嵌の高麗青磁・李朝の粉青沙器」特別展を開催しています。規模は小さいながらも非常に充実した展示です。この美術館は、とくに海外に評判のようで、日本人よりも外国人の訪問客が多いといいます。

一日の時間を細分して三ヵ所を巡り、精一杯心と眼を保養し浄化したつもりですが、私自身の受容能力に限界を感じた一日でもありました。

One thought on “085j 新羅・高麗の宝物に日本という外国の地で接する”

  1. この記事を読んで、何十年かぶりに司馬遼太郎の『故郷忘じがたく候』を思い出した。「新羅時代の宝物に日本という外国の地で接したことが、私のなかに嬉しさと驚きだけでなく、切々とした感情を呼び起こしました」筆者の情緒を僕はどこまで理解できるのだろうか。

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