077j 二つの講演: 歴史から現代へ、現代から歴史へ

10月9日夜と10日午前に講演をしました。外交官の主な仕事の一つに、在任国の人々や本国からの訪問者を対象に講演やスピーチを行うことがあります。ただ、今回のように連日行うのは珍しいことです。

講演やスピーチを比較的頻繁に行うので、淡々とこなしているように思われるでしょうが、そんなことはありません。スピーチや講演を準備する段階では、いつも大いに悩まされます。対象に応じて、同じテーマでも表現や強調する内容・ポイントが異なるからです。聞き手が退屈せずに当方の伝えたいメッセージを確実に伝えるため、全体の流れをいかに組み立てるか、構成するのにかなり神経を使うのです。

9日の講演対象は、大阪府議会の日韓親善議員連盟の所属議員、10日は修学旅行で大阪を訪問中の韓国の高校生でした。議員が依頼してきたテーマは「韓国と大阪の友好増進」、高校生のそれは「グローバル・リーダーシップ」でした。

大阪府議会は保守系の大阪維新の会、自民党、公明党所属が絶対多数を占めています。また、在日コリアンが多く住む大阪の人々は友人やビジネス、学校、食品、文化など韓国関連の話題を一つか二つ必ず持っています。それで、議員に対しては、百済・新羅時代(紀元前1世紀-7世紀)から現代までの交流の歴史と事例を挙げ、長い歳月をかけて蓄積された大阪の歴史的資産を生かし、日韓友好の牽引役になっていただきたい、というメッセージを送りました。

韓国の学生たちや、大阪を訪れる韓国人の若い観光客には、韓国のK-POPや食べ物を楽しむ日本の若者たちの姿を伝えるようにしています。今回の高校生に対しては、相手を理解するため、単に見学するのではなく、一歩奥に入って相手の文化や歴史、生活を知ることが重要だ、と強調しました。

二つの講演を終えたあと、振り返って考えてみると、全体として同じ内容を順序を変えて話した格好になっていました。大阪府の議員たちには歴史的な関係から始めて現代の話を展開し、韓国の高校生には現代から過去に遡って話をしたからです。

議員には、過去の歴史から始めて現在に至るほうが話の展開がスムーズになる、という考えを持っていました。高校生には、特に何の考えもなく話し始め、自然と現代から過去に流れていきました。

どのように話を展開するにせよ、重要なことは、聴衆が話し手の言葉にどれだけ呼応してくれるかです(もちろん、主に話し手の力量と熱意によります)。私の限られた経験では、準備段階で伝えたいメッセージ、キーワードや話の順序、事例などについて悩べば悩んだ分だけ共鳴効果が大きくなるように思います。

とはいえ、毎回話し終わると、不足感が残ることが少なくありません。ギリシャ神話のシーシュポスの岩のように、どんなに苦労して岩を押し上げても、最後は谷底に落ちてしまうのです。

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