美しき 紅葉は踏まず 磴下る 吉田 登子
秋のはじめ、木々は次々にその葉を黄色くしたり、赤くしたりしながら落して行った。その紅葉を見に、都会を離れる人たちで電車もバスもこみ合う。ほこりをかぶる。酔った人たちの喧嘩を見なければならない。お花見と同じである。
しかし、木々は人間に、秋毎に奉仕をしているのでもなければ、互いにその美をきそっているのでもない。
何かというとすぐにコンクールを考え、第一の美女を選びだす奇妙な習慣を持ってしまった人間が、紅葉の名所を作って集まるのを、山の木々、谷の木々はどんな気持ちで眺めているだろう、もし心あらば。
木の葉が散るまえに、なぜあんなに美しい色をするのだろうか、と考えてみて、その意味が分からず頭を悩ましているのは人間である。
「紅葉も、落葉も、一つの厳然とした営みを行なっているために美しい…」
串田 孫一 『季節の断層』より
わが身を振り返る…
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